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其の一『瞳ノ言葉』
陽の光で真冬の寒さが僅かに緩和され、時折、乾いた風が枝ばかりとなった木々を揺らしていた。
空は青く晴れ渡り大気はひんやりとしているが、まもなく迎える新年の準備に慌ただしい大晦日にはありがたい晴天だ。
そんな中、清太は縁側に膝立ちになって、横たわる男の腰を懸命に揉んでいた。
「そっちじゃねえよ、右だって言ってんだろうが。右も左もわかんねえのか?」
指示が飛び、清太は慌てて逆の方へと手を伸ばして揉む位置を変える。
男の名は深見慎之介。清太が下男として働く深見家の当主だ。
親の代から深見家で働いている清太は、清太より八つ年上の慎之介のことを幼い頃から知っている。
先天的に口のきけない清太に字を教えてくれたのが慎之介だった。
慎之介の父親である亡くなった前当主の指図であったが、慎之介は倦むことなく手習いを続けてくれた。それは厳しくはあったが、突き放されたことは一度もなく、今では絵と文字とを交えた筆談で日常生活になんら支障はない。
流行病で前当主と清太の両親、そして慎之介の兄で跡継ぎであった弥一郎が亡くなり、慎之介が跡を継いで五年。清太は十一の年から身を尽くして慎之介に仕えてきた。
話せないというだけでその他はいたって頑健な清太は、今では慎之介の背を越すほどに成長した。ひとりきりで深見家の全ての雑事をこなしているからか、膂力もかなりある。
慎之介の命ずるままその体を揉みほぐすのも、清太の仕事のひとつだった。
そして、いつものように慎之介の上下左右といった指示に従って体を揉んでいると、突然女の声が響いた。
「こら慎之介! この年の暮れに何してンのかと思ったらこの男は――」
ささやかな広さの庭先に現れた女は、縁側の慎之介と清太の姿を見るなり呆れたように声を上げた。
「よお、佐和」
慎之介は寝転がったまま女に視線をやった。
茄子紺色の着物に黒い羽織りを纏った小股の切れ上がった女は、持っていた風呂敷包みを縁側に置き、ため息をひとつ吐いて腰に手を当てる。
「よお、じゃないわよ。いっつもそうやって清太のことをこき使っているんだから」
「いいじゃねえか按摩くらい。なあ、清太?」
ちらりと視線を寄越した慎之介に、清太はこっくりと頷いた。こき使われていると思ったことは一度もない。
「清太が口答えしないのをいいことに、我が儘放題してンじゃないの?」
「人聞きの悪いこと言うなよ」
「ろくに家のことを出来ないアンタのおかげで、清太がどれだけ働いてると思ってンの。自重しなさい」
「下男が家のことすんのは当たり前じゃねえか」
「禄も少なきゃ役職もない貧乏御家人が、奉公人を顎で使える身分の訳ァないでしょう」
慎之介の言い分は雇主としてもっともではあったが、女は譲らなかった。
たしかに最下層の御家人の暮らし向きは決して楽ではない。禄高だけでは生活出来ないのが普通だ。
それ故に内職をする者も多く、舛花色の洒落た着流し姿で一見すると内職などしそうにない慎之介も例外ではなかった。
「たまの片手業で稼いだお金のほとんどを酒と博打と女遊びに使って、清太が遣り繰りにどれだけ苦労してるか、どうせアンタは知らないでしょうね」
女は再度ため息を吐いて、力なく頭を振る。
図星をさされた慎之介は不機嫌に鼻を鳴らしてむくりと起き上がった。
「ンだよ。おまえは知ってるってえのか?」
「家の中の仕事と遣り繰りの仕方を清太に教えたのはこの小蝶姐さんよ」
女は胸を張って慎之介を見下ろす。
だが慎之介は間髪入れずに言い返した。
「威張れることかよ。所帯臭いだけじゃねえか。てめえの客に見せてやりたいよ」
女――小蝶はもとは武家の娘で、現在は柳橋で芸者をしている。かつては深見家の隣に住んでいた、慎之介のふたつ年下の幼馴染みだ。
慎之介や清太と同じく流行病でふた親を亡くし、跡継ぎのための婿養子を迎えることもなく芸者になった。小蝶のことを本名の“佐和”と呼ぶのは、いまでは慎之介をはじめごく僅かしかいない。
小蝶は慎之介の反撃にすっと目を細め、冷ややかな声で告げた。
「そういう憎まれ口はツケを全部払ってから言うのね」
そのひと言でたちまち形勢は小蝶へと傾く。
ぐっと言葉に詰まった慎之介は、立てた片膝に肘を乗せた伝法な姿勢を改めて胡座をかくと、仁王立ちの小蝶を横目で見上げた。
「それで来たのか、お前」
「居留守を使うわ、口八丁言いくるめるわ、掛け取りも苦労するわよね。頼まれてね、私が一番確実だってンでわざわざ来てやったわけよ」
ため息混じりに小蝶が言う。
すべて事実だった。金がなく、この一年の品代を徴収しに来た掛け取りたちを、時には居留守で、時には適当に言いくるめて追い返していた。
たしかに小蝶ならば居留守をしていても中に上がり込め、慎之介の口も封じることが出来る。なんやかやと世話を焼いてくれる小蝶には、慎之介も清太も頭が上がらない。
しかしこれくらいで観念するような慎之介ではなく、長い付き合いも手伝って小蝶に遠慮もない。
「お座敷掛かんねえほど暇こいてンのかと思ったぜ」
慎之介はわざとらしくため息を吐いて毒づいた。
だが小蝶も言われっ放しではいなかった。おもむろに近寄り慎之介の顔に手を伸ばし、
「余計なことを言うのはこの口かしら?」
「いてってててッ!」
手加減なしにつままれた左頬を力いっぱい引っ張られ、慎之介はたまらず声を上げた。
清太は慎之介の後ろに控えておろおろと二人を見守っていた。相手が小蝶でなければ力ずくでも慎之介を守るが、小蝶にだけはそれはできない。
「さあ、耳を揃えて払いなさい。でないと身ぐるみ剥いでいくわよ。なんならアンタを売っ払ってでも…トウが立ってるから二束三文でしょうけど」
「わはっは! 払ふ! 払ひはふ!!」
冗談とは思えない冷たいまなざしと声で告げられて、慎之介はたまらず応じてしまった。
春をひさぐのも人足になるのも御免被りたい。
小蝶は観念した様子の慎之介から手を離し、にっこりと微笑んだ。
「ちょうど足りそうだから、これで酒代と米代も払っておいてあげるわ」
慎之介の財布から出させた金を数え、小蝶が清太に言った。
――申し訳ありません、佐和様。
清太は唇をそう動かして頭を下げた。
小蝶は短い言葉なら唇の動きで察してくれるので、筆談の手間が通常の半分程度で済む。
筆談の必要が全くなく、唇の動きだけで清太の言わんとすることのすべてを理解してくれるのは、慎之介ひとりだけだ。
小蝶は柔らかな微笑を浮かべて優しく言った。
「いいのよ。あんな口も意地も悪い男の世話に明け暮れて、清太こそご苦労様」
――とんでもございません!
清太はぶるぶると首を横に振った。
慎之介に仕えることは苦労でも何でもなく、慎之介のために働くことは清太の喜びなのだ。
「博打の元手もないんじゃあ、さすがにあいつもこの正月は家にいるでしょう。これお餅。食べてね」
小蝶は持っていた風呂敷包みを清太に差し出した。自分の荷物を携えていたのではなく、最初から清太に渡すつもりだったようだ。
――ありがとうございます。
清太は礼を述べて恭しく包みを押しいただき、落とさぬようしっかりと胸に抱いた。
「こっちこそありがとうね、清太。あんなンでも幼馴染みだからさ、清太が慎ちゃんのこと見捨てないでいてくれて嬉しい」
子供の頃の呼び名を口にして、小蝶は清太の頭を撫でた。会えば口喧嘩ばかりだが、小蝶も慎之介も互いを嫌っているわけではない。
口がきけないことでからかいの対象になることがよくあった幼い頃の清太を、慎之介と小蝶はいつだって助けてくれた。そして慎之介は、清太の大切な主人だ。見捨てるなど、考えたこともない。
そんな清太の思いがわかったのか、小蝶はもう一度柔らかく微笑んでから踵を返した。
「それじゃあね、良いお年を」
清太は、ひらひらと手を振ってから背を向けた小蝶に向かい、深々と頭を下げた。
「ったく、ちったァ残しといてくれてもいいじゃねえかよ、あの女」
もらった餅を台所に置いた清太が縁側に戻ると、一文も残らず空になった財布を覗き込みながら慎之介がぶつぶつと文句を言っていた。
一度は観念しながらも出し渋る素振りを見せた慎之介の懐に手を突っ込んで財布を奪い取り、小蝶は持参していた小さな巾着に金を全て移してしまった。
素直に従っていれば少しくらいは残しておいてくれたかもしれないが、厄介なことに、慎之介はそこでおとなしく言いなりになるような性格をしていない。
そして、按摩の続きをしようと近付きかけた清太が、ふと空を見上げた。
晴れていた空の青がいつの間にやら雲の灰色に覆い尽くされ、あたりは幾分暗くなっている。空気の冴えも増し、いずれ白いものが落ちてきてもおかしくないような空へと変わっていた。
清太は踵を返し、部屋の中へと戻った。
目的の物を手にして急いで引き返すと、慎之介の愚痴はまだ終わっていなかった。
「だいたい年下のくせに生意気なんだよなー。昔っからあいつは……?」
背後から肩にふわりと綿入れを掛けられ、慎之介が愚痴を中断して振り向く。
清太は手を上へと伸ばし、天空を指差した。指先を目で追った慎之介は、すぐにその行為の意味するところに気付いて頷いた。
「ああ、降りそうだな。そういやァ冷えてきた」
かつて通っていた剣術道場での稽古の賜物か、どちらかといえば細身の慎之介だが、腕っ節も体も強い。しかし寒さだけには弱く、体を冷やすと熱を出すことがあった。
それらを心得ている清太は、気温の変化を察して綿入れを持って来たのだ。
「ありがとよ」
慎之介は薄く笑みを浮かべて清太の頭を撫でた。
洒落者の慎之介は普段綿入れなど着ないが、自宅にいるときは清太の気遣いを受け入れてくれる。
たしかに佐和が言うように口も意地も悪いが、清太に対しては、優しい時も、礼を言われることも、褒めてくれることもある。
物言いや行動は乱暴なこともあるが、清太をいらないと言ったことは一度もない。清太はそれだけで充分幸せだった。
慎之介は傍らの煙草盆を引き寄せて煙管を取り上げた。新たに煙草を詰め、火を吸い付けて、ふかしながら空の財布を逆さにして振る。
「あーあ、完ッ全におけらだよ。博打の元手もありゃしねえ。打たなきゃ酒代も花代も出ねえじゃねえか、こン畜生」
打ち方が上手いのかもともと勝負強いのか、慎之介は博打で大負けしたことがない。それどころか、深見家の財源の半分近くが博打によるものだった。
無役で貧乏御家人の慎之介が酒だ妓(おんな)だと遊んでいられるのは、多少なりとも博打で稼げるからだ。
だが、大勝ちは争いを呼ぶ。そこのところは慎之介も心得ているようで、派手に勝ちまくることはないらしい。
賭場は慈善事業ではない。中には、客がいつの間にか大金を落としていくようにわざと仕向ける賭場もあるのだ。
だから負けるのも計算のうちなのだと、清太は以前慎之介から聞かされたことがある。
居合わせた小蝶は負けた時のための言い訳だろうと本気にしていなかったが、これまで慎之介が賭場でのいざこざに巻き込まれたことがないのは、上手に打っているからなのだろうと清太は思っている。
本当に根こそぎ持って行ったのだなと思いつつ、清太は不貞腐れている慎之介の顔を覗き込んだ。
――お酒はあります。
「え? あんのか!?」
清太の唇の動きを読んだ慎之介が驚きに目を見開いた。清太はこくんと頷いて続けた。
――お金のあるうちに買っておきました。お節とお餅で、正月はしのげます。
「…っの遣り繰り上手! これで年が明けりゃあ何とかならァな」
慎之介の手が乱暴に清太の頭をはたき、そのまま腕に抱くようにして引き寄せられる。
抱え込まれて髪をぐしゃぐしゃと掻き乱されたが、清太の顔には笑みが浮かんでいた。
褒められたことよりも、慎之介の嬉しそうな顔がなにより嬉しかった。
夜も更け、あたりはしんと静まり返っていた。夕方にちらほらと落ちて来た雪はうっすらと降り積もり、景色を白く染めている。
「清太ァ酒〜!」
晩酌に少しだけと言って酒を出させた慎之介は、三度めの追加を命じた。清太は控え目に慎之介に訴えてみる。
――いま全部飲んでしまったら、正月は本当に何もないですよ。お床はのべましたから、程よいところでお休みください。
だが、慎之介は応じなかった。
「女もいねえのにこンぐらいの酒で気持ちよく眠れるかよ〜」
酒には強いはずなので酔っているわけではない。ごねて見せているだけだ。だが、先立つものがなければ酒も女もどうにもならない。
清太は困惑の表情を浮かべ、どうしたものかと思案した。
慎之介が望むものなら、どんなものでも用意したい。
清太に背を向けて手枕で横になった慎之介は、左手に持っていた煙管を指先でくるくると回して弄びながら言った。
「それとも何かー? おまえが子守歌でも歌ってくれンのかー?」
軽い調子で投げ掛けられた言葉で慎之介の声は途切れ、数秒、深い沈黙が訪れる。
「すまん! いまの無し……ッ」
己の失言をすぐさま悟り慌てて身を起こした慎之介は、振り返って愕然とした。確かに慎之介の背後に座っていたはずなのに、そこに清太はいない。
清太が慎之介の言動で落ち込んだり泣いたりしたことは、これまで一度たりともなかった。
打たれ強くて我慢強く、盲目的なほどに慎之介を慕っている。それを解っているから、字や言葉を教える時も日々の暮らしの中でも、厳しく接しもしたし、多少の無理も言ってきた。
慎之介は煙管を放り出して立ち上がり、部屋を出た。
狭い屋敷だ。清太が隠れる場所などそうはない。
だが捜索するよりも早く、慎之介の目は清太の姿を捉えていた。
玄関に腰を下ろし、屈んで何かをしている。傍らには傘と提灯と、それに火を移すために用意されただろう手燭の炎が小さく揺れていた。
「清太!」
慎之介は足早に歩み寄り、膝をつくなり後ろから手荒く清太を抱き寄せた。
「悪かった。…行くなよ」
言葉少なだが、声にも目にもふざけたところは一切ない。だが、低い声の真剣さに反し、清太は全くこたえた様子もなく不思議そうに振り返った。
――お酒を買いに行くだけですけど…。
「どこで? それに金がねえだろう?」
今度は慎之介が訝しげに首を捻った。
――この先の橋の袂の屋台は今夜も出ているだろうから、そこで分けてもらおうかと。お金はここに。
清太は懐から巾着を引きずり出した。そして、重そうなそれを床に置いて袋の口を開けてみせる。
慎之介は手燭をかざし袋の中を照らして覗き込んだ。中には、結構な量の小銭が入っている。
「これ――まさか、お前の給金と小遣いか?」
慎之介の問いに清太はこくりと頷いた。
もともと給金の使い道があまりない上に、慎之介が小遣いをくれる回数も少なくないので、清太は使い切れたことがなかった。
度々小遣いを寄越す余裕があるのに年末に掛け取りから逃げ回る羽目になるのは、入った金をすぐに酒や女に使ってしまうからだ。
「馬鹿か! お前の金なんだからてめえのために使え! しかもこの量、今までろくに使ってねえのか!?」
叱られたところで、特に欲しいものもないのだから仕方がない。博打にも富籤にも興味はないし、着道楽でも食い道楽でもない。強いていうなら団子が大好物だったが、たまに食うくらいで満足だ。
「いつか所帯を持つ日が来たら金も入り用だろう。俺の酒代に使ってどうするよ」
――そんな相手はいませんし、慎之介様が不自由されないよう努めるのがおれの為すべきことですから。
「…お前、気付いてねえのか?」
近所の下女や酒屋の子守り女が清太に熱い眼差しを向けていることを、慎之介は知っている。
言葉のこともあり内向的な子供ではあったが、慎之介が字を教えるようになってからは徐々に人を怖がらなくなった。いまでは他人に笑顔を向けることも普通のことになっていて愛想もいいのだが、色恋に関しては子供のままのようだ。
「お前、好いた人はいねえのか?」
念のため、慎之介は尋ねてみた。慕う相手がいるのなら、成就の手助けくらいはしてやりたいと思う。
清太は不思議そうな顔をして瞬きをすると、眉を寄せて考え込んだ。
「笑顔を見るだけで幸せになれる奴とか、ずっと一緒にいたい奴とか、いるんじゃねえか?」
――笑ってくれるだけで幸せで、ずっと一緒にいたい人…?
清太は慎之介の言葉を繰り返し、しばし考えた。
やがて、眉根の力を抜いて顔を上げる。それから、ひょいと手を上げて目の前の男を指差した。
「俺!?」
明らかに自分に向けられた清太の指先に、慎之介は驚愕して声を上げた。
その刹那、
「えっ? な、なんだァ!?」
素早く胸倉を掴んだかと思うと、清太が前傾姿勢で慎之介にのしかかった。受け止め切れずに尻餅をつき、慎之介は清太ごとごろりと床に転がってしまう。
全く予想外の行動に呆気に取られていると、清太が慎之介の着物の襟に手を掛けた。そして、はだけんばかりの勢いで掴んだ襟を手前に引く。
「おいっこら! 何…ッ」
慌てて清太の手首を掴んで慎之介は無理やり上体を起こした。
清太の唇が“ほころび”と動く。
「……ああ、なんだ」
清太が掴んだあたりを見下ろすとたしかに一部に綻びがある。
慎之介は物には執着しない質だが、着物にはそれなりのこだわりがあった。着道楽といっていい。
流行の色や柄をさりげなく取り入れる上手さには、慎之介に対しては辛口の小蝶も素直に称賛していたほどである。
だから清太は、慎之介の着物の扱いには常に気をつけていた。
「この間の喧嘩の時に引っ掛けたかな」
さらりと放たれた言葉に清太が顔色を変える。
「大丈夫、大丈夫。勝ったから」
――……怪我は…?
慎之介は自ら売ることはないにしろ売られた喧嘩を返品することはない。それをわかっている清太は喧嘩については何も言わず、ただ怪我の有無だけを訊ねた。
「ひとつもねえよ」
そう答えながら、傷も痛みも何もないと両手を拡げて見せた慎之介に、清太が強張っていた表情をほっとゆるめた。
そして巾着の口を閉じて懐に戻し、酒を購ってきたあとに綻びを繕うから着物を脱いでいてくれるよう頼んだ。
「酒はいい」
――でも…?
清太が不思議そうに首を傾げた。食事より酒が好きな慎之介にしては珍しいことを言う。
慎之介は清太の腕をしっかりと掴んで、首を横に振った。
「今夜はもう飲まん。おまえも此処に居ろ」
珍しいこともあるものだと思った清太だが、慎之介がそう言うのなら出掛ける理由はない。
清太は傘を片付け手燭の火を吹き消して、慎之介と共に中へと戻った。
慎之介は、横になって煙管を口に運びながら、縫い物と格闘する清太を眺めていた。
料理も掃除も洗濯も、今ではさほど苦もなくこなしている。しかし裁縫だけは苦手で、どんなに小蝶が教え込んでも上達しなかった。
だが、全く出来ないというわけではない。手が著しく遅いだけだ。
細かい作業が得意でないので、ひと針ひと針慎重に縫い進めていく。先ほども、針に糸を通すだけで大層な時間が掛かり、見ていた慎之介は何度も寄越せと言いそうになった。しかし、根気強く一生懸命やっているのだからと思いとどまり、今に至っている。
大きななりをして背を丸めるように正座し家宝の逸品を扱うように綻びを繕う様は、おかしくもあり微笑ましくもある。
そもそも気の長い方ではない自分が何故清太に関しては苛々せずにいられるのか慎之介には不思議だったが、腹が立つより先に微笑ましいと思ってしまうことが原因なのかもしれない。
慎之介だけに懸命に尽くしてくれ、一心に慕ってくる清太が、可愛くてならないのだ。
そこまで考えた慎之介は、自分の思考に幾分驚いて顔を上げた。そして、小さく呟いて意味ありげに苦笑した。
「……ああ、そうか……なるほどな――」
一心不乱に縫い物と格闘する清太はそれに気付かない。
ややあって、清太が慎之介に視線を寄越した。できました、と嬉しげに告げる。
慎之介は体を起こし、黙って右手を差し出した。清太は着物を手に歩み寄り、緊張の面持ちでそれを手渡す。
「……ん、上出来」
裏から表からと検分し、慎之介は言った。縫い目は均等で美しく、表からの見目もおかしくない。
褒められた清太が心底嬉しげににっこりと笑った。
つられるように口許を緩ませた慎之介の手が清太へと伸びる。
いつもは乱暴に頭を撫でたり鼻をつまんだりする手が頬に触れたことに、清太が怪訝そうに瞬きをした。すぐに頬の手は離れたが、今度は襟元へと移動し、胸倉を引っ掴まれた清太は強引に引き寄せられる。
そして、何事か問う暇も抗う間もなく、唇が塞がれた。
それはほんの短い時間だったが、唇を離した慎之介をぽかんとして見返す清太には時間の感覚はない。
だが、慎之介にとっては十分な時間だったようだ。
「――よしっ」
拳を握って気合いを入れた慎之介の唇が笑いの形を作り、立ち上がって清太の手を引く。
清太は理由も解らずそれに従い、慎之介の手が導くまま寝間へと連れ込まれ、そして敷きのべてあった夜具に放り投げられた。
――慎之介…様…?
立ったまま見下ろしている慎之介を見上げ、清太が呆然と呟く。当然声は届かない。
明かりのついていない部屋では顔が見えなかったが、清太には慎之介が笑っているのが判った。しかし、これから何が始まるのかは解らない。
慎之介が行灯へと歩み寄り、火をつける。淡いその光でようやく慎之介の表情が明らかになった。唇にはやはり、薄い笑みがある。
そして、夜具の上に座り込んだままの清太の傍らに、慎之介が膝をついた。
――え? な、何? ちょっ、慎之介様!? 酔ってるんですか?
のし掛かるようにして身を寄せて来た慎之介の手が着物の裾を割ったのに仰天した清太が唇を動かす。
それをじっと見つめていた慎之介がにやりと笑った。
「あれしきの酒で酔うかよ」
――だだだだだって!
「いま猛烈におまえを抱きたい。だからやる」
――お、おれ男……
「いまさら改めて言われんでもわかってる。こんなモンが付いているおなごがいるか」
いつの間にか忍び入っていた手で股間のものを柔く掴まれ、清太の肩がびくりと震えた。
困惑と動揺の入り交じったまなざしを向けられ、慎之助がふっと笑う。
「俺にゃァ衆道の気はまるでないと思っていたんだがなあ。お前の口を吸ってもこうやって触っていても厭だとはまるで思わん。それならまぐわうのも可能だろう?」
――で、でも…っ
清太はうろたえて身動ぎした。もはや、思考がついていかない。
「お前、俺のことが嫌いか?」
ゆっくりと問われて、清太は思いきり首を横に振った。
嫌いなわけがない。嫌いになどなれない。何より大事な、大好きな人だ。
「俺に触られて、気持ちが悪いか?」
もう一度問われ、清太はまた首を横に振った。
「それなら問題ないな」
そういうものなのだろうか?
男とどころか女ともまだ経験のない清太には、容易には頷けない。
だが、慎之介は清太の返事を待たなかった。
唇が頬をかすめ、舌先が耳朶をすくう。
思わず慎之助の着物を引っ掴んだがお構いなしに甘噛みされて、清太の喉奥にひゅっと息が吸い込まれた。
首筋を伝い下りた唇がその途中をきつく啄んで、はだけた襟元へと移動する。
慎之介は、立てた自分の片膝に清太を寄り掛からせるようにして抱き、戸惑いを露わにしている顔を見ながら下帯を弛めた。
直に触れられて驚いた清太がぐいぐいと慎之介の袖を引いたが、慎之介には止める気は毛頭ない。
清太は幼い頃からずっと深見家に奉公しているため、同年代の友人と遊ぶ機会も年相応の様々な話をする機会もほとんどない。奉公先に同性の同僚がいれば色事の話もしたろうが、この家の奉公人は清太ひとりだ。
慎之介に教えた覚えはなく、小蝶もこの手のことまで教えはしない。だから清太には色事の知識はそれほどないだろうと踏んだが、やはりそうらしい。
これから何が始まるのかわからず不安そうに慎之介を見つめる清太に、できるだけ優しく笑って見せる。
「任せな。悦くしてやるから」
顔を寄せて囁いて、慎之介は清太の額にくちづけた。
荒い吐息の音が徐々に甘みを帯び始めていた。清太はなす術もなく全てを慎之介に委ねている。
茹蛸のように赤く染まった顔を交差させた腕で覆い隠し、慎之介の指と舌の動きに反応して呼吸を乱す清太を、慎之介は楽しそうに眺めていた。
体こそ大きいが、肌はまだ若く張りがあり、少年の柔らかさを僅かに残している。
慎之介はまだ着衣のままだが、解かれた清太の帯は畳の上に放り投げられ、着物もその脇に蹲っていた。
「…清太。顔見せろ」
素肌に小さな紅い痕を散らせながら下へ下へと移動していた慎之介が、清太の脚の間から少しだけ身を起こして言った。
清太は腕と腕の隙間から恐る恐る目を覗かせる。
「手をどけな」
促したが、清太はぎゅっと目を閉じてぶるぶると首を横に振り、今一度腕の向こうに顔を隠してしまった。
「こら」
慎之介は完全に体を起こし、言うことをきかない清太の腕を掴んで無理矢理それを退けた。
そして、背けられたこれ以上赤くなりようがないほど赤くなった顔を、強引に自分の方へと向ける。
「おい、こら。なに目ェ瞑ってんだ」
――だっ…て…
「ちゃんと目ェ開けて俺を見ろ」
清太はもう一度、今度はさらに激しく首を横に振った。
何がなんだかわからなくて、この上もなく恥ずかしくて、慎之介の顔がまともに見られない。
慎之介は清太の両手首を胸の前でひと纏めにして掴み、空いた片手で腰骨から腹にかけてを撫で、再度清太の男茎へと触れた。
指先で撫でられ、擦られ、舌を這わされたそこは固く形を取り始めていて、ちょっとした刺激でも内腿が強張りを顕わす。
「見ろよ、清太」
誘うように、慎之介の舌が清太の唇を舐めた。微かに震えながら小さく開いた唇を食みながら手の中のものを弄ると、息を飲んだ清太の喉奥に吸い込まれた空気が悲鳴のような音をたてる。
親指の先で押し開くようにした清太のものの先端から、じわりと雫が溢れた。
手首を戒めていた慎之介の手が解かれ、その手が己の肩へと清太の手を導く。清太は導かれるまま腕を回し、慎之介の首に縋り付いた。
「清太」
至近距離から囁かれた声の甘さに誘われたように、清太の瞼がうっすらと開いた。眦に涙が浮かんでいる。
「…清太?」
――し…慎之介…様…っ
「どうした?」
――おれ…あの……
「ああ…出したくなったら出しちまえ」
己の手の中の清太のものの張り詰め方で限界が近いと感じていた慎之介は、微笑を浮かべてそっと清太を促した。
――でも…っ
「いいから。…ほら」
躊躇う清太の目をじっと覗き込み、慎之介は緩く上下させていた手に力を込める。
慎之介の首に回された清太の両手が、慎之介の着物を手繰り寄せるようにしてぎゅっと掴んだ。
そして、清太の腰が跳ね、慎之介の手の中に勢い良く精を吐き出した。
「――気持ち良かったろう?」
――……すみませ…っ
半開きの瞼に口づけて訊ねた慎之介を、涙ぐんだ清太が見上げて謝った。
「何を謝る?」
――慎之介様の手を…
「問題ない」
目尻から溢れ出て頬を伝った涙を舐め上げて、慎之介は断言する。
「それよりどうだ? 気持ち良かったか?」
清太の額に自分の額を押し付けて再度訊ねた慎之介を、清太の瞳が躊躇いがちに見返す。そして、小さく頷いた。
「そうか」
慎之介はいつになく柔らかく笑って清太を見下ろした。
かわいいと思った。
慎之介が一番大事だとなんの迷いもなく思ってくれるのも、その通り懸命に慎之介に尽くしてくれるのも、しがみついてきた手も、涙に濡れた眼も、慎之介の名を音もなく呼ぶ様も、羞恥に戸惑いながらも素直に反応を示すのも、かわいくてたまらない。
まったく、どうしちまったんだか――胸の内で呟いて、慎之介は笑みを収めた。
男は試したことがなかったが、女と寝るのは好きだった。腕の中の女を可愛いと思ったことも勿論ある。
だが、どちらかといえば慣れている妓を好み、こんなふうに何もかもがかわいくて仕方がないと思ったことはなかった。
馴染んだ女と別れる時に、取り乱したことや寂しいと思ったことはただの一度もない。しかし先刻、清太が出ていったのではないかと思った時、思いも寄らぬほどの焦燥を覚えた。
すぐそばにいるのが当たり前で、失うということを考えたことがなかったからだろう。
だが、生じた思いはそれだけではなかった。
本当に、我ながらどうかしている。
ほんの幼い頃から知っている奉公人で、腕の中に収まる華奢さも丸みのある可憐さも柔らかな豊満さもない男を、こんなにも欲しいと思うとは。
しかし、躊躇いはもうない。
「清太……膝立てろ。片方じゃない、両方だ」
慎之介の指示に戸惑いつつ言う通りに両膝を立てた清太の脚の間に入り込み、慎之介は自分の帯を解いた。
そして、清太の放った精に濡れた指先を、清太の尻へと伸ばす。
さすがに身じろぎして腰を引いた清太だが、慎之介は片方の脚を抱え込むようにして後退る清太を引き止めた。
菊座の上を指先で円を描くように撫で、慎之介は清太を見遣る。
その眼には困惑や疑問や躊躇いや狼狽が入り乱れていたが、拒絶の色はなかった。
もうずっと長いことこの眼を見てきた。言葉の代わりに瞳の中から清太の言わんとすることを酌み取ってきた慎之介には、清太の思うことが手に取るようにわかる。
清太には、そして慎之介にも想像だにしなかったこんな事態になっても、清太の慎之介への信頼と敬慕の情は変わらずある。
嬉しくも後ろめたくもあったが、慎之介は己の欲求に従った。
入り込んできた指の異物感に、清太の四肢に力がこもる。異物を吐き出そうときつく締めつけてくるのもかまわずに、さらに指を進ませた。
慎之介は半ば強引に指を動かし、何者も受け入れたことのないそこを解きほぐしにかかった。
同時に己の一物に手を伸ばし、すでに猛り始めていたそれを手荒く扱いて完全に立ち上がらせる。
「……苦しいか?」
しばらく経ってからふと慎之介が尋ねた。
体内で蠢く二本に増えた指に大層な異物感があるだろう清太だが、慎之介の問いに健気にも首を横に振って見せる。実際は、痛みと混乱で快楽どころではないはずだ。
慎之介は苦笑し、清太の行き場を失っていた両手を自分の着物へと導いた。少し体を前へ倒した慎之介の袖と胸の辺りを掴んだ清太が、幾分ほっとした表情を浮かべる。
だが、その安堵は長く続かなかった。何の前触れもなく指が引き抜かれ、清太の体がびくりと震える。
慎之介は清太の両脚を開かせ、自らの猛りを菊座へと押し当てた。本来、もっと時間をかけてじっくりと慣すべきなのだろうが、そんな余裕はない。
「…すまねえな。もっと楽な体勢もあるだろうが、こっちからじゃねえとお前の顔が見えねえ」
上体を倒して出来る限り清太に顔を近付け、慎之介はそう告げた。
声というものがない分、極力清太の顔を見るようにしてきた。唇の動きを見るのは勿論、目の色や表情を読んで会話をするのだ。
それに、この行為が清太に何をもたらすのかも見てみたい。
「力を抜いていろ」
抜けと言われて抜けるものでもないだろうと思いながらもそう促し、清太の腰を引きつける。十数秒待って僅かにふっと力が抜けた瞬間を逃さず、膝を進めて突き入れた。
清太が大きく息を飲み、慎之介の着物を掴む手が固く握り締められる。
「……清太?」
唇が動いているのを見て取って、慎之介は尋ねた。
乱れる呼吸と痛みにわななくそれが、繰り返し繰り返し何かを形作る。
それが自分の名だと解った慎之介は、続いて動いた唇を読み、笑みを浮かべて応えた。
「ああ、いいぞ」
返ってきた答えを聞いた清太の唇が「良かった」と動き、表情が緩んだ。
清太は慎之介に、気持ちがいいかと訊ねたのだ。
単なる疑問ではなく、自分の体で気持ちがいいかどうかという問いだ。
苦しげな呼吸を繰り返しながらもぎこちなく笑う清太を思うまま突き上げたいという衝動を一旦抑え、慎之介は肩のあたりを掴む清太の手にくちづけを落として抱き寄せた。
遠くから、低く長く響きわたる鐘の音が聞えてきた。
百八の鐘ごときではこの煩悩は払えなかろうと頭の片隅でぼんやりと考えながら、慎之介はしがみついてくる清太の背を抱き、その体を大きく揺すり上げた。
夜のうちに甍に薄く積もった雪が、新しい年の陽光を照り返している。
町屋の隙間から見える空には幾つかの凧が舞い上がり、青空に彩りを添えていた。
「慎之介、清太、いるー? 上がるわよー」
深見家の玄関を粋な芸者姿の女が訪れ、奥に向かって声かけた。そして応答を待たずに、勝手知ったるといった風情で上がり込む。
居間に誰もいないのを確認してから、小蝶は慎之介の私室へとやってきてこの家の主に声を掛けた。
「明けましておめでとう」
「おう」
慎之介は、長火鉢に肘を乗せて温めていた手を上げ、屠蘇を飲みつつ応じた。
「おとなしく家にいたのね。感心感心」
「誰かさんが根こそぎ持ってっちまったから懐が寒くてなー」
「清太は?」
「寝てる」
「まだ? 寝坊だなんて珍しいわねえ」
そう言って、小蝶は清太が寝間にしている小部屋へ向かおうと踵を返した。
「そっちじゃねえよ」
「……? じゃあどこよ?」
「そこだ」
慎之介は顎で部屋の奥を指し示した。
襖が片方だけ開いているそこが慎之介の寝間だと知っている小蝶は怪訝そうな顔をしたが、慎之介に何故とは問わずに奥の部屋へと歩み寄る。そして、
「清太?」
呼び掛けながら隣室を覗き込んだ。
縁側からの光が障子越しに差し込み、部屋の中の様子は目を凝らすまでもなく見て取れた。
敷き延べられたままの乱れた夜具の上に、見覚えのある舛花色の着物が無造作に広がっている。それを体に掛けて横たわっているのは清太だ。起きる気配をまるで見せずに規則正しい寝息を立てている。
部屋の空気は気怠さを残し、寝返りを打ってはだけたかして晒されている清太の肌には、明らかな情事の痕跡が赤い印となって残っていた。
「…な……ッ!」
「なァ佐和ー。雑煮作ってくれよー」
「こ、こッ、こ〜〜〜〜」
「鶏のまねか? 似てねえぞ」
わなわなと震え言葉にならない声を上げる小蝶に、慎之介が返す。
次の瞬間、小蝶がくるりと振り返り、つかつかと慎之介に歩み寄ってその胸倉を引っ掴んだ。そして、部屋の壁を揺るがすような怒声が放たれた。
「この腐れ外道ッ!!!!!」
正月朔日に発せられる言葉にしては激しいが、慎之介は動じることなく小蝶を見上げる。
「なんだよ藪から棒に」
「アンタの手の早さは知ってるし、これまでアンタがどこの妓と遊ぼうがかまわなかったけど、だからって清太にまで手ェ出すなんてこの馬鹿…っ」
「馬鹿たァなんだ」
「清太よ!? あんなに一生懸命尽くしてくれるあの子をこんな風に弄ぶなんて、非道にも程があるわよ!」
「弄んだつもりはねえぞ」
「――え?」
怒りに任せてまくし立てていた小蝶は、慎之介の返答にぽかんと口を開けて言葉を切る。
慎之介はそんな小蝶の手を難なく払って立ち上がり、隣室へと向かった。
清太は小蝶の怒声にも目を覚まさなかったようで、体に掛けられた慎之介の着物を抱きしめるようにして眠っている。
「ちょっと? どういうことよ、慎之介!」
怒りで吹き飛んだ清太が眠っているという現況を思い出したのか、小蝶は声をひそめて慎之介の背中に問い掛けた。
慎之介は答えず、じっと清太を眺めた。
夜が明けて、己の中にどういう感情が去来するのかと思っていたが、悪い気分ではなかった。
まだ整理し切れていない部分もあるが、これだけは確かだ。
自分のそばからいなくなられては困る。――離したくない。
「…楽しみだ」
目覚めた清太の瞳が何を語るのか――
慎之介は、薄く笑みを浮かべて小さく呟いた。
−終−
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